更新日 : 2013-10-22 06:33:17

温故知新 古代魚に学ぶ新しい装甲

なにがすごいの?

アフリカの淡水域に生息する「ポリプテルス・セネガルス」は、恐竜がいた9600万年前にまでその系統を遡ることができる原始的な魚です。

日本では「恐竜ウナギ」という名で知られていますが、全身に鎧(よろい)をまとってように見えるのでその名がついています。
ポリプテルス・セネガルスの鎧は決して見かけ倒しではありません。
自分の縄張りに入ってきた相手を追い出すために戦ったり、自分よりも大きな肉食動物に襲われて噛みつかれたりした時に、体の内側体の軟らかい部分を防御する強固な鎧として機能しています。

その防御能力の高さの秘密は鱗(うろこ)の構造にあります。
1枚の鱗の厚さは500マイクロメートルで、材質と硬さの異なる4つの層が重なった「積層構造」になっています。
噛みつかれたときには、この積層構造で衝撃を分散させて、鱗の下にある体の軟らかい部分までを守ります。
外側の層は最も硬く、噛みついてきた鋭い歯に耐えることができます。
真ん中の層は少し軟らかく、変形することで噛みついた時のエネルギーを分散させます。
内側の層はベニヤ板のような構造で、さらにエネルギーを吸収します。
鱗の積層構造のおかげで、攻撃されて鱗にヒビが入っても、ヒビは攻撃を受けた鱗周辺部分だけにとどめられて、損傷を最小限に抑えられるのです。
ヒビ割れに強い積層構造の仕組みは、「割れないアワビの殻」と非常によく似ていますね。

どうやって役立てるの?

鱗の4層の「積層構造」
(C) Benjamin, J. F., et al., 2008, Materials design principles of ancient fish armour. Nature Materials 7, 748–756.
複合材料による多層構造が貫こうとする力に対して強い設計であることを応用すれば、より安全性の高い装甲の開発方法につながるでしょう。
また異なる材料を組み合わせて作るので、強度を保ったまま装甲の軽量化を実現することができるでしょう。

どんな研究をしているの?

ポリプテルス・セネガルスの鱗の積層構造とその高い防御能力を発見したのは、マサチューセッツ大学のソルジャー・ナノテクノロジー研究所の研究チームです。

彼らは、生きたポリプテルス・セネガルスから採取した1枚の鱗を使って測定、観察を行い、また外敵による噛みつきを真似た模擬実験を行いました。
さらに、鱗の外層と中間層を入れ替えたシミュレーションを行った場合、うろこがバラバラになる可能性があることもわかりました。
鱗の防御力の高さには4層の並び方が重要だったのです。

どんな技術開発ができるの?

戦場で兵士の身の安全を守るための、新しい防弾チョッキの開発に応用できます。
また、弾丸や宇宙空間を高速で移動するスペースデブリ(宇宙のゴミ)などの貫通の危険に晒される、軍用の車や船舶、航空機、あるいは宇宙船、宇宙ステーション、衛星などの外装にも応用できるかも知れません。

一方で、生物としてのポリプテルス・セネガルスに注目すると、魚類がいつ、どのようにして複合材料からなる積層構造の鱗を持つようになったのか、という魚類進化の新しい発見につながりそうです。

【参考】
・Benjamin, J. F., et al., 2008, Materials design principles of ancient fish armour. Nature Materials 7, 748–756.
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